STAR WATCHING レポートSTAR WATCHING レポート

履正社学園豊中中学校の約半数の生徒が在籍する理科部。
その理科部の活動の中でも、異彩を放っているのが
「スターウォッチング」と呼ばれるイベントです。
この関西最大級の天体観測会を取り上げた読売新聞オンラインの
記事(2018年12月)を再録し、ご紹介します。

 履正社学園豊中中学校(大阪府豊中市)は9月29日、
天体観測会「STAR WATCHING 2018」を開催した。
台風の接近で小雨ちらつく天気となり、星の観測はかなわなかったが、
「雨に負けない! 履正社“星の夕べ”」と題した屋内の催しに切り替え、
参加した地域の小学生や受験生ら228人とともにスクリーンの星空やクイズを楽しんだ。

雨天でも親子連れで埋まる記念ホール。

 天体観測会「STAR WATCHING 2018」が予定された9月29日、台風24号の接近で大阪も朝から小雨がちらつく空模様となった。それでも、午後5時半の開催に先立って明るいうちに履正社の正門に向かうと、中学生たちが並んで、「こんにちは」という明るいあいさつで出迎えてくれた。

 昨年、完成したばかりの新校舎に通されて受け付けをすると、天体写真のポストカードがプレゼントされ、会場となった2階の記念ホールに案内された。意外なことに中の席は既に200人を超える親子連れで埋まっている。今年は悪天候が予想されたため、事前に雨天などの場合は「雨に負けない! 履正社“星の夕べ”」と題し、同ホールで、美しい天体写真を楽しんだり、天体写真のプレゼントがあったりすると学校側が告知していたからだろう。

 開始時刻になると、中学生らが整列してホールに入場してきた。さっきまで入り口や受付、案内を担当していた理科部の生徒たちだ。ホールの前方のステージには11台の天体望遠鏡が並べられている。

 小森重喜校長が壇上から「1年かけて準備してきましたが、雨なので『星の夕べ』で楽しみましょう」とあいさつ。続いて中学理科担当の平賀英児先生がマイクを握り、天体の解説を始めた。ステージいっぱいの大きなスクリーンに、リアルタイムの星空シミュレーションが映し出された。

親子連れで埋まる記念ホール
ホールのステージには11台もの天体望遠鏡が並ぶ

理科の平賀英児先生
天体観測会の企画運営を担当する理科の平賀英児先生

「土星は裏からだとどう見えるのでしょう」

「金星、木星、土星が三つ並ぶのは珍しいのですが、15年ぶりに接近した火星も加えて四つ並ぶのは大変珍しい」
「天気が良ければ天体望遠鏡で見えるはずだった木星は、地球の11倍もの大きさです。模様があります。ズームアップして見てみましょう」

 と平賀先生が解説を続ける。晴れていれば、人工芝のグラウンドに場所を移して22台の天体望遠鏡で実際の夜空を観測するプログラムだったが、室内でスクリーンを使っての観賞には、資料画像を自由自在に使えるメリットがある。

「白鳥座のアルビレオは一つの星に見えますが二つの星からできています」
「土星には輪があります。土星は裏からだとどう見えるのでしょう」

 平賀先生の繰り出す天体の知識や映像美に、会場は引き込まれるように静かだったが、平賀先生が「大きな声で『おー』と驚いてリアクションをお願いします」と声をかけると、会場からは「おー」という大きな声が返ってきて拍手が巻き起こり、一転なごやかな空気に変わった。

兄の話を聞いて履正社の理科部に入部。

 この日は天体以外の写真も紹介された。平賀先生が北海道や岩手、沖縄など全国各地で観察し、撮影した自然や動物の写真だ。鯨がジャンプする瞬間の迫力ある姿や、エゾリスのアップがスクリーンに広がるたび、「おー」「かわいい」などの声が上がった。

 中学生活のさまざまなシーンを捉えた写真も数々披露された。北海道への修学旅行でスキーを楽しんだり、木を削ってオリジナルペンダントを作ったりする生徒たちの姿が次々映し出される。「これはキャンプファイヤーですが、勢いが良すぎて火柱のようですね」など、平賀先生が軽妙な解説を加えると客席から明るい笑いがこぼれた。

 この日の観測会を準備し、「星の夕べ」をサポートした理科部の紹介もあった。理科部は生徒に人気の部活動で、在校生の約半数が部員として活動しているほど。天体観測会は理科部の中から希望者を募って50人あまりが準備と運営に携わったという。案内役を務めた中学3年生の實茉音さんは中学受験のため星の勉強をしたのがきっかけで天体好きになり、理科部に入部したという。中学1年生の田中千景さんは小学生のとき、履正社で学ぶ兄から、理科部の合宿で採取した鉱石を見せてもらって話を聞き、自分も理科部に入部すると決めたそうだ。

 部員数が多いので、学年ごと、テーマごとに活動や合宿を行っていて、雪原での天体観測もあれば、生野銀山での金銀採取体験など理科部の活動は幅広い。

神戸大学天文研究会の先輩があいさつを。

 その後、神戸大学天文研究会の大学生が登壇した。天体観測会は、神戸大学と地域の天文ファンの会のサポートで開催している。神戸大学3年生の平田俊輝さんは中学高校6年間を履正社で学んだ卒業生だ。「中学1年生のとき、第1回の天体観測会がありました。そのとき、神戸大学のお兄さん、お姉さんの話を聞き、神戸大学に進学して天文研究会に入れたらいいなと思い、第一志望にして勉強しました。中学生のみなさん。神戸大学に入って、僕の後輩になってください」と呼びかけた。

 会も終わりに近づき、お楽しみクイズも行われた。会場の全員が起立して、クイズに答え、正解者が残っていく。「スピカという星の名前の意味は真珠か小麦の穂か」といった難問に小学生たちも懸命に答えていく。

 勝ち残った正解者約10人には、月面ポスターや大判の天体写真などの賞品が渡され、「また、来年会いましょう」という言葉とともに会は締めくくられた。

 参加した男子児童は「天体に興味があって来たのですが、中学生になったらどんなことが待っているのかが分かり、中学生になるのが楽しみになりました」と目を輝かせていた。

神戸大学天文研究会に所属する二人
履正社の卒業生で神戸大学天文研究会に所属する二人

人生の豊かさを感じてほしい。

「間もなく創立100年、豊中の地で50年余りの歴史のある古い学校ですから、星をきっかけにもっと地域と関わっていきたいと始めました」と平賀先生は話した。天体観測会は、理科教員だけでなく学校全体で取り組んでいる。実施にあたっては天体望遠鏡の操作に詳しい専門家も必要だが、幸い同校にはそうした教員が何人もおり、「星くらぶM57」や神戸大学天文研究会などの協力も得ることができている。

 年1回、この時期の開催で今年8回目となる。地域の小学校にポスターやチラシで案内し、学校説明会でも告知している。「履正社の天体観測会は楽しい」と口コミも広がっていて、毎回、400人の定員はすぐ埋まるという。

「本校は進学校ですが、先に目指すものが見えないまま勉強をすることは、生徒にとってなかなかつらいものです。偏差値をにらんでいても、やる気が生まれにくい。中学生のうちに大学生と触れ合うことや、自然観察をはじめとした楽しい体験を級友とたくさんすることで人生の豊かさを感じてもらえたら、大学受験の乗り越え方が少し違うものになると思います」と平賀先生は語った。


天の川を染める夕陽。こんな光景を観るのも理科部の合宿の醍醐味だ

※読売オンラインの記事(2018年12月27日掲載)に一部加筆修正しました。